• 石川加奈子

case #2 仲良しだったお兄ちゃん

最終更新: 2020年12月17日




石川:

今日はどうぞ宜しくお願い致します。話しにくい内容かも知れませんが、Sさんの体験について伺わせていただければと思います。


S:

こちらこそ、宜しくお願い致します。


石川:

今日お話しいただけるのは、Sさんが小学生の時に遭った体験と伺いましたが。


S:

はい、私が小学2年生の時の出来事です。


石川:

何があったのでしょう。お話しできる範囲で構いませんので、お聞かせいただければと思います。


S:

はい。私の通っていた小学校では、毎年4月に1年生から6年生までが一緒になった、全学年合同の班というものが作られていました。私は、当時その班で一緒になった6年生の男子と仲良くなりました。

凄く優しくて頼りがいがある人だったので、私は本当の兄のように慕って、「お兄ちゃん」と呼んでいました。休み時間にいつも遊んだり、班ごとに遠足に行く行事の時も、私が疲れるとおんぶしてくれたりしました。

秋頃のことです。班ごとに「かるた」を作って校内に展示することになって、休み時間や放課後に班のみんなで集まってかるたを作っていた時期がありました。基本的には班員全員が集まって作業をしていたのですが、ある放課後、なぜか私と「お兄ちゃん」の二人しか集まらない日があって、二人で作業をすることになりました。

いつもは校庭のベンチなどを使って絵を描くなどの作業をしていたのですが、その日は「お兄ちゃん」が「この部屋が空いてるからここで作ろう!」と言って、普段は使われていない物置のようなところに連れて行かれ、そこで作業をすることになりました。夕方なのに電気もついていなかったので、絵が描きづらいなと思いながら作業をしていたら、「お兄ちゃん」が私の隣にくっついてきて、「Sちゃんは絵が上手だね、そうだよ、その調子」と私の背中の辺りを撫でてきました。「お兄ちゃん」に言葉をかけられながら私はそのまま絵を描き続けていたのですが、背中を撫でていた手が徐々に下がってきて、服の上からお尻を触られ始めました。「お兄ちゃん」の声の調子は全く変わらず、「その調子、そうだよ…」と言い続けていたので、私もそのまま絵を描き続けていたら、服の上からお尻を触っていた手がゆっくり下着の中に入ってきました。

服の上から触られているときも、「そこお尻なんだけど…」と思っていましたが、「お兄ちゃん」はずっと私の絵を褒めてくれていたので、「もしかしたらお兄ちゃんはお尻ということに気づいていないのかもしれない」と思っていました。私は小学2年生で、性についてはまだ何も考えていませんでしたし、何より、親しい「お兄ちゃん」でしたので。

でも、「お兄ちゃん」の手が下着の中に入ってきた時、一気に思考が止まりました。驚いたし、何よりその状況を理解することができませんでした。でも、絵を描いている私の手が止まったのを見た「お兄ちゃん」が「Sちゃん、手が止まってるよ、描かなきゃダメでしょ」と言ってきたら、何を思ったのか私も「ああそっか」と思って、気にしないふりをしてまた絵を描き始めてしまったんです。すごく怖かったんですけど、この「お兄ちゃん」がそんなことするはずないって、その状況でも信じたかったんだと思います。だから「お兄ちゃん」はお尻だと気づいていないのかも、と思って。



石川:

そうでしたか。それは凄く怖い体験だったと思います。抵抗しなかったのもSさんがその人のことをすごく信頼していたからですよね。それに小学校2年生だと、一体何が起こっているのか、その状況を判断することも難しかったかもしれませんね。


S:

そうなんです。絵に集中していない私がおかしいのかなと思ってしまって。そして、そのままお尻を触られながら私は絵を描き続けてしまいました。でも、「お兄ちゃん」の手がまた動き出したんです。今度はもっと下の方に。そして前の方に手が進んできました。そこで初めて、「おかしい、お兄ちゃんはわかっててやってる」って思ったんです。そしてやっとこのままここにいるのは危ない、怖いって思って、咄嗟にお兄ちゃんに「もう帰る」とだけ伝えて必死に走って部屋から出ました。



石川:

そうだったんですね…。それからどうなったのでしょうか。


S:

家に帰ってから、私は一人でずっと考え込んでいました。性犯罪の被害に遭ったのに、正直最初は実感が湧かなくて。でも怖いという思いはあって…。母に相談しようとも考えましたが、なにしろまだ幼かったので、相談するほどのものなのかどうかも判断できずに迷っていました。相談するほどのことじゃなかったら周りに迷惑だけ掛けてしまいそう、って。それにもし大事だったら私が汚いもののように母は感じてしまうんじゃないか、母を悲しませてしまうんじゃないかと思ったら、余計話し出せなくなってしまいました。考えれば考えるほどわからなくなってしまい、最後には「本当は何も起きてなくて、『お兄ちゃん』に触られてすらなかったのかもしれない」とまで思ってしまいました。

それから数日の間、一人で考え込んでいました。学校では「お兄ちゃん」を避けつつ、家では元気そうに振る舞って。でも、さすがは母というべきでしょうか。私の振る舞いに違和感を感じたらしく、母の方から「Sちゃん何かあったの、最近学校どう?」と聞いてくれました。そこでやっとこの話を自分から話すことができました。といっても、自分ではどこまで大事の話かわからないままだったので「気にすることじゃないとは思うんだけど…」と自分で前置きをして簡単に一連の流れを話しました。


石川:

お母さまから聞かれて、やっと自分から話し出せたんですね。


S:

はい。母に聞かれなかったらあのまま話すことは出来なかったと思います。でも聞いてもらえたことで、話すことが出来ました。話していくと、私の話を聞いていた母の顔がみるみると険しくなっていって、「その話は本当なの?」と真剣な態度で私の話を聞いてくれました。母の表情を見て、やっと私に起きたことはおかしなことだったんだ、大変なことだったんだとはっきり気づいて、ある意味安心したことを覚えています。それにこれも当たり前のことかもしれませんが、母は私を汚いもののように扱うことは決してなく、「辛かったね」とずっと優しく話を聞きながらそばにいてくれました。私はすごく安心しましたし、自分は汚いものではないんだと実感することも出来ました

母に話してからは事の進みは速かったです。母が学校の担任の先生や校長先生などに内々で相談をして、相手の両親とも話してくれていたようでした。そして一か月くらい経った頃、私と私の両親、「お兄ちゃん」とその両親、校長先生や教頭先生、担任の先生の間で話し合う機会が設けられました。そこで「お兄ちゃん」とその両親が直接私に謝罪をしてこの話は終わりました。


石川:

最後はちゃんと面と向かって謝罪を受けられたんですね。Sさんとしても、納得できたのでしょうか?


S:

私としては、もう「お兄ちゃん」と顔は合わせたくないと思っていたので、顔を合わせて話し合いをするということにはとても緊張しました。でも、信頼できる大人の人たちがいる中でちゃんと謝罪を受けたことで、その人たちが守ってくれるのであればこの先同じことはされないだろうと思えました。実際、その後班編成も作り直され、「お兄ちゃん」と顔を合わせることもなくなったので、もう怖いことはありませんでした。


石川:

子どもの時ですと、守ってもらえる大人がいるかどうかで大きく状況が変わりますね。事件の後、ちゃんと配慮してもらえて本当によかったです。


S:

はい。私にとって、特に母と担任の先生の存在が大きかったです。私は周りの友達に事件のことを知られたくなかったので、母が学校側に相談する際、毎回私に「○○先生にSちゃんのされたこと話してもいい?」と確認してくれたことはすごく安心感につながりました。そして私の担任の先生が「お兄ちゃん」に確認した当初は、「お兄ちゃん」は「そんなことしていない」とずっと言っていたのだそうです。でも、担任の先生が何度も何度も聞き続けてくれたら、やっと泣きながら白状したのだそうです。それを聞いて、担任の先生が私に起きたことについて真剣に向き合ってくれている気がしてすごく嬉しかったです。


石川:

性被害って、その体験自体怖くて、心が深く傷つきますけど、その後の出来事次第で二次被害と言いますか、さらに傷つくことがありますよね。その人の気持ちを考えながら行動してくれる方が身近にいてくれたら、とても安心できますよね。


石川:

その後何か気をつけたり、Sさんの中で変わったことはありますか?


S:

私の場合は、幼くて理解するまで遅れたこともあってか、男性自体が苦手になったり、暗い部屋がダメになったりといった、以前とはっきり変わったことというのはありませんでした。でも、今でも友達に背後にいられたり、ふざけてお尻を触られたりすることには嫌悪感を感じます。背中もあまり触らないでほしい。そのくらいですかね。他には母への信頼感が増して、その後なんでも相談できるようになりました母がそばにいてくれたからこそ、嫌悪感はあっても恐怖感はないのかもしれません


石川:

そうですか。恐怖感はなくても、嫌悪感は残ってしまいますよね。お母さまの支えが本当に大きかったのですね。


S:

性被害に遭うと、どんなに昔の話であっても、心に消えない傷が残ってしまうことがありますよね。私に子供が生まれたら、私が母にしてもらったように私も子供を守りながらそばにいて、もしも何かがあった時は優しく支えてあげられるようにしたいです。


石川:

Sさんのお話を聞いて、性被害の悪質さと、周りの方の支えの大切さを改めて感じました。

本日は貴重なお話をありがとうございました。




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