石川:
今日はどうぞ宜しくお願い致します。話しにくい内容かも知れませんが、Kさんの体験について伺わせていただければと思います。
K:
こちらこそ、宜しくお願い致します。
石川:
今日お話しいただけるのは、Kさんが高校生の時に遭った体験と伺いましたが。
K:
はい、私が高校1年生の時の出来事です。
石川:
何があったのでしょう。お話しできる範囲でお聞かせいただければと思います。
K:
はい。あの日は、新しく買った秋用のワンピースを下ろしたので、秋頃のことだったと思います。友達と街で遊んだ帰りの出来事でした。
夕方ごろ、駅で友だちと別れ、家に向かって電車で帰っていました。被害に遭ったのはその帰りの電車の中でした。
私は急行電車に乗っていて、数駅先の駅で私鉄に乗り換える必要がありました。夕方の電車は帰宅ラッシュで混みやすいですが、その日は結構空いている印象で、車内で私の近くにいたのはサッカー部と思われる小、中学生くらいの男子学生数人だけでした。
私は少し疲れていたので座りたいと思っていましたが、男子学生たちが座席辺りで固まって話していたので、私は座らずに出入り口付近で立っていました。
乗り換え駅の一つ手前の駅に電車が着いた時、一人の男性が電車に乗ってきました。その男性は全身黒のジャージを着て、帽子とマスクと眼鏡をしていて、鞄は持たずに腕にジャケットのようなものを掛けていました。
男性は車両の出入り口付近にいる私の前に立って向き合う形で乗車してきました。邪魔でしたし、距離がちょっと近いなと思いましたが、電車に乗ってきたのはその人だけで、もしかすると、奥にいる男子学生たちを見て、私と同じようにこの辺にしようと思ったのかもしれない、と思って最初はそこまで気にしませんでした。
しかし、電車が発車してからしばらくして、何か様子がおかしいと思いました。
明らかに目の前の男性は私に密着してきていて、ずっと息が荒いんです。そして私の下腹部に何か固くて生暖かいものが当たっていました。腕に掛けているジャケットのボタンかとも思いましたが、直ぐに、男性の着ているジャージの生地がすごく薄くて、勃起した男性の陰部を当てられていることに気が付きました。ジャケットで陰部がまわりからは見えないように隠していたのです。
石川:
その男性が服越しにKさんの体に陰部を押し当ててきていたんですね。私も電車内で同じような目に遭ったことがあるのでわかります。すごく気持ち悪いですよね。
K:
はい。一気に血の気が引きました。驚いたし、怖かったし、何より気持ち悪くて。それに私は男性経験がなかったので、男性の陰部がこんな風になるのかと思ったら余計ショックで、気持ち悪くなりました。どんどん男性の息が上がってきて、これ以上何かされるのではないかと恐怖も増してきました。
石川:
恐怖感でいっぱいになって固まってしまった当時のKさんのことがありありと想像できます。本当に怖かったですね。その時は周りの人に助けを求めたりされたんですか?
K:
それも考えました。でも、私の近くには男子学生しかいなくて。男子学生は子供で、背丈も私よりかなり低かったので、助けを求めても男性に力で負けてしまうのではないかと思いましたし、それにこんな男性を見たら、同性であってもショックを受けるのではないかと思って声を出すことが出来ませんでした。
母と当時お付き合いをしていた彼氏にLINEでメッセージを送りましたが、二人ともちょうど携帯を見ていなかったのか返事が来ませんでした。
なので、次の駅に着くまで何とか耐えて、着いたらすぐに逃げようと、それだけを考えていました。
ただ、そう思っても目の前の男性の息は上がり続けていて、私の恐怖感は増していくばかりでした。私は必死に「早く駅に着いて」とずっと祈っていました。
少しでも冷静に自分を保とうと、電車が駅に着く時間を調べましたが、まだ3分くらい残っていました。あと3分と思いましたが、その3分間は本当に長く感じました。
石川:
そうだったんですね…。それからどうなったのでしょうか。
K:
やっと駅に着いたので、私は急いで逃げようとしました。そしたら、その男性が背後から私を引き留めるように強く抱き着いてきたんです。車内では陰部を押し当てられて密着されていても、直接触られてはいませんでしたが、ここで初めて身体に触れられて全身が硬直しました。
恐怖感も限界に来ていて、声も出せませんでした。でも、あるだけの力を振り絞って男性を振りほどいて電車から走って逃げました。そして階段を駆け上がったあたりで一度後ろを振り返って見てみたんです。そしたら男性が追いかけてきていて…。それを見てまた無我夢中で走りました。
走って改札を抜けて、私鉄の改札付近から人が多くなってきたので、人混みに紛れることにしました。人に紛れて私鉄の改札を通って、もう一度後方を見渡してみると、その男性の姿は見当たりませんでした。そこでやっとほっとして、そのまま家まで電車で帰りました。
石川:
そうでしたか。後ろから抱き着いてきて、さらに追いかけてくるなんて。怖かったですね。でも、男性を振りほどいて走って逃げて、当時のKさん本当に頑張りましたね。
自宅の最寄駅について、その後は何かありましたか?
K:
まだ母からも彼氏からも返事が来ていなかったので、私はそのまま自分の足で家まで帰りました。家に着くまでずっと『もしかしたら男性がいるかもしれない』と思って凄く怖かったのを覚えています。何度も何度も、周囲を確認しながら帰りました。
ようやく家に着くと、とたんに足に力が入らなくなって、涙が溢れてきました。その時、自分は想像以上に怖かったんだなと気づきました。
そのまま泣きながら母を呼んで、母に一部始終話しました。母に話している間も体がずっと震えていました。少しずつ母に話していくうちに震えは止まって、落ち着いてきました。でも落ち着いていくと同時に、今度はどんどん怒りの気持ちが湧いてきたんです。あの時ひっぱたいてやればよかったとか、蹴ってでも逃げればよかったとか色々と後悔し始めました。とは言っても、その時は怖くて体は動かせなかったのが現実です。
石川:
その気持ちよくわかります。後から「ああすればよかった」「こうすればよかった」と色々と考えてしまいますよね。性犯罪者に対しての怒りはもちろんありますが、何も出来なかった自分に対しても、もっと何か他に出来たのではないかと自分を責めてしまうこともありますよね。悪いのは痴漢をしたその人で、Kさんは一切悪くないのに。
K:
そうなんです。そうやって自分を責めてしまうことも悔しかったです。
その後しばらくは一人で外を歩いたり電車に乗ることがすごく怖かったです。それに、被害に遭った時に着ていたワンピースも、下ろしたてでしたが、嫌な記憶が蘇りそうで着れなくて…。結局処分してしまいました。
被害に遭った時に彼氏にも連絡していたといいましたが、母と同じように彼氏にも後日その話をしたら、彼は真剣に聞いてくれなくて。彼も高校1年生でしたし、そこまで深く考えられないのかもしれませんが、性被害の重さもわからず、その被害者の辛さも理解できない人とは一緒に居られないと思って別れました。真剣に話を聞いてくれなかったことに傷ついたんですよね。
石川:
一度被害に遭うと、多くの影響が出ますよね。ひとりで外を歩くことや電車に乗ることが怖いという気持ちも、その時着ていたワンピースを着られなくなってしまったことも、よくわかります。当時お付き合いしていた方とのお別れも悲しかったですね。信頼している人にわかってもらいたいという気持ちわかります。Kさんにとってはそれだけ大きな出来事でしたからね。
K:
はい。今はもう普通に電車に乗っていますし、別れた彼とも友だちとして交流はあります。ただ、あの出来事が全てひっくるめて悲しい思い出になっています。それは時間が経過しても変わらないです。
石川:
Kさんのお話を聞いて、性被害の恐怖に加えて、被害に遭ったあとの悔しさや悲しさも改めて感じました。
Kさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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